微火

BLオタクによる読書/映画感想日記など

王谷晶『君の六月は凍る』(たぶんネタバレなし)

泣きたい、のとはちょっと違う。
王谷晶『君の六月は凍る』併録の『ベイビー、イッツ・お東京さま』の暴力に目が離せないでいる。その日暮らしで食いつなぐ二次創作字書きの疲弊、孤独、祈りが突き刺さって抜けない。

「妄想」が好きな主人公の思考は音を伴って強制終了されていくが、それがあらゆる意味で自分を生へと引き止めている。ぶつん、と音がするたびに、文字通りの意味で心臓をわしづかまれゆさぶられる心地がする。

「そのときだけ、自分が自分でいることを放棄できる。自我がコーラやキャラメルポップコーンの中に溶け、ただ映画を受容する生命体になる。名前も失くし、職も失くし、誰にも見られず、ただ目の前のスクリーンで起こることを受け入れる。映画館で映画を観るのは、忘我の境地に居る快楽だ」

なんだかなあ。こういうこと、主人公は何度も何度も言うんだ。

二次創作もこんなふうに没頭して、大好きな二人の関係性だけをせいいっぱい愛でて暮らしたい。「忘我の境地」にいたいのに、否応なしに現実へ引き戻されてしまう。

どんなに趣味に空想にしがみついていようとも、それらは残酷な社会の延長上のものでしかないことを、気づきたくないのに否応なしに気づかされてしまう。これもまた、主人公の忌避する、しかし直面せざるを得ない暴力でもあって。つらい。
「気づきたくない」気持ちがありありと文章化されていて、暮らしのままならなさはリアリティがたっぷりで、わたしはこれからどうしよう、読み返してはそんなことばかり考える。もっと具体的なことが言えると思ったけど、いざ書き出すと言葉にならなくて、文章がものすごく抽象的になっちゃったなあ。

王谷晶の暴力が好きだ。本タイトルになっているほうは、言うまでもなくすごい。本当に本当に帯文通り。においが生々しくて、不気味なのに、そこから離れられない。幼少期、住宅街の真ん中で飼っていた二羽の鶏のことを、ぼんやりと思い出す。鶏の子供か〜〜……